『仮想的な失調』インタビュー|辻村優子


––まず自己紹介からお願いします。

出演で参加しています、辻村優子です。

––辻村さんは『仮想的な失調』が「円盤に乗る派」に参加するのは初めてですか?

そうです。一度カゲヤマ気象台名義の『ゲムゲムの風』というコント作品に出て、その時も私以外は「円盤に乗る派」の人々だったので、それを入れたら今回が3回目になります。

––はじめに「円盤に乗る派」についての印象などをお伺いしても良いでしょうか?

いろんな形の人がいる4人組だなと思っています。4人の体の形が全然違うなと思っていて、そこが結構印象的です。キャラ立ちしているということとは別の話として、みんなそれぞれバラバラの身体を持っているという感じがしています。なんだろう、遠目に見た時に絵に描きやすそう(笑)。

––その身体の形がバラバラということは、作品を作っている時にポジティブに働いているんですか?

そうですね。稽古中はディスカッションする時間だったり、コンセプトについて話し合いをする時間が多いんですが、その話したことをどう具体的に身体で表現するかということも話題に上がっています。話し合ったことをそれぞれのやり方でマッシュアップして演技していると思います。身体の内側で起きていることを稽古場で共有しながらも、その形がバラバラで見た目が面白い状態になっている場面が多くあります。あんまり稽古場で話していないけど、見た目の形がバラバラで面白いということが劇の面白さを担保してたりする側面があると思っていて、そこがいいなと思っています。ルッキズムとはまた違った、身体の形が違って面白いよね、あなたの形ってこういう形だよねということが、ポジティブに舞台上に現れているような気がします。

––『仮想的な失調』という作品への印象をお伺いしてもいいですか?

演劇は、目の前で起こって、人の身体があって、時間が流れて、ものすごく具体的になってしまうので、目に見えているものをどうするかという問題から解放されることは難しいと思っていて。だけど、『仮想的な失調』は、そうじゃないところで書かれている戯曲だと思っています。最初はその戯曲を、この肉体からは逃れられない舞台上でどうやってやるのかと思いました。初演では、稽古とかクリエーションを通して、解放されることができない肉体を立ち上げるみたいなことをやっていました。

初演を見た夫に、『それって能じゃない』と言われて。私は作っている時にそんなことは考えていなかったし、能の身体性の話なども稽古場ではしていなかったと思うんですけど、クリエーションで上がってきたトピックや演出の言葉、共演者とのやり取りや、美術、衣装などさまざまなセクションのアイデアが集まって、何というか、能的な、身体性が立ち上がっていたのかもしれないと思いました。能を教わることとは別のルートで能的なものが立ち上がっていたんだと思って、初演から2年経ってそのことをやっと今、振り返っているという感じです。

––辻村さんは特に幽霊の役で、特殊な身体の状態が続いていると思うんですけど、役に取り組むにあたってはどのような感じですか?

私は元々新劇的な感性の強いところで俳優教育を受けているので、すぐお話をやろうとしちゃうんです。すぐそこに世界を立ち上げようとしたり、役をやろうとしちゃう。逆に、「やらない」ということをやってしまうという感じがあります。最初はそのことにすごく苦労して、どうやっても演じている人のトーンになってしまうという感じでした。そこから自分の状態を違うところにずらしていくアイデアを稽古場で試し続けたという感じがあります。例えば、意味を捉えないように努力していました。言葉を発しているとどうしてもその言葉に影響を受けてしまって役が輪郭を持ってしまうことがわかってきたので、そこからズラす作業をしたり。でもこれはドラマの演技とは全く違う思考回路なので、頭でやる役の身体性から逃れられないので、身体感覚の状態を頼りに意味を追いかけていない発語を稽古の中で試してフィードバックを集めながら幽霊的な見え方を捉えていきました。結果、よくわかんないことになってたんですよ、常に宙ぶらりんな状態というか。このことに名前をつけると定まってしまって台無しになってしまうので、今も私の中ではフィードバックで蓄積されたデータがたくさんあるだけという状態なんです。そこから、自分や空間の状態に合わせて、差分をチューニングしながら身体を使っているという感覚があります。それが演技と呼べるのかはずっとわからない感じです。

––再演まであと2週間くらいですが、初演の時の感覚とかなり変わってきていますか?

2年の間に自分で作品を作ったりもして、自分の身体に対する印象や使い方も変わったり、再現性が高まったりしていて、強度が上がっている分、前に収集したデータでは追いつかなくなってきていると思います。一方で、演技の再現をビデオジャッジで正確に修正していくこと以上に、私がよくわからない状態になっているということの方がすごく大事だなと思っています。初演を終えたことで、例えば能みたいだったねと言われることで説明がつくような状態になってしまったことが他にもたくさんあって、それはよくわからない状態とは違うなと思うので、もう一度自分をよくわからない状態に持っていくために何を考えればいいのかということを稽古中に集めている印象があります。

––この前、通しをしたと思いますが体感はどんな感じですか?

通しの振り返りをした時に、初演の時は幽霊は9太郎の分身という解釈でやっていたんですが、最近はそう思えなくなってきているということが初めて言語化できました。初演の時は9太郎(下駄くん)の身体をものすごく意識していたし、下駄くんとの間にあるものによって動かされているという感覚があったんですが、今はそうではなくなってきている。でもこのことはネガティブな意味ではなくて、幽霊という存在が、9太郎の幽霊かもしれないし、ヒラオカくんの幽霊かもしれない、ヒラオカくんも他の誰かの幽霊の可能性もある、みたいな。最初のセリフで、自分は電波だったみたいなことを言うんですが、別に誰の何とは言ってないと言うことにはっと気づいて。それで腑に落ちたところがありました。劇の見た目が大きく変わるようなことはないかもしれないけど、2022年と2024年では確実に変わっていて、特に自分は客席に意識を使うことが多いので、客席にどんな人が座っているかと言うことは自分がすごく考える因子になるなとも思っています。

全体に対して思ったのは、美術が初演と同じものを目指そうとした結果だいぶ違う状態になるんじゃないかなと思っていて、そのことがすごく面白いことだなと思っています。演者が初演を再演しようとやってることと、美術の織音さんが初演を再現しようとやったことがずれている瞬間が訪れるような気がしています。美術にレールがあるんですけど、その敷かれたレールに沿って自然に流れが変わっていくように、美術によって我々の行先も少し変わるような気がして、新しい旅路になりうるんじゃないかなと思っています。

今回は芸術祭の枠組みで上演するので、客席の空気が違うみたいなことがあるだろうなと思っていて、そのことについて考えています。インディペンデントでやっていたものが、公共に取り上げられることってどういうことなんだろう、自分の中でどうやって筋を通そうみたいなことを考えています。東京芸術祭でやっているという状態を自分で引き受けていくことも幽霊の演技に含まれていくような気がしています。

それから、『仮想的な失調』は常にコラボフードと共にある公演で、今回もかき氷があるので、そちらもぜひ食べてみていただければと思います。

2024年9月5日(木)
インタビュー・編集:中條玲
撮影:濱田晋

辻村優子

1985年生まれ 静岡県出身
新国立劇場演劇研修所三期終了。

柔軟性の高い身体性と声で大劇場から小劇場まで幅広く出演。俳優としての活動にとどまらず、ワークショップファシリテーターとしても活動中。七夕の短冊や手紙など身近な題材を使ったプログラムは、幅広い層に人気がある。最近では演技ともみほぐしの共通点に着目した『パフォーマンスもまれ処』や、美術モデルの経験から立ち上げたワークショップ『ポーズを着る』を展開。

公演情報

「東京芸術祭 2024」参加

『仮想的な失調』

会期

2024年9月19日(木)〜9月22日(日・祝)

会場

東京芸術劇場 シアターウエスト

JR・東京メトロ・東武東上線・西武池袋線 池袋駅西口より徒歩2分。駅地下通路2b出口と直結しています。
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-8-1
https://www.geigeki.jp/

人々

演出
カゲヤマ気象台*、蜂巣もも(グループ・野原)
脚本
カゲヤマ気象台*
出演
辻村優子
鶴田理紗(白昼夢)
橋本 清(ブルーノプロデュース/y/n)
畠山 峻*(PEOPLE太)
日和下駄*

*=円盤に乗る派プロジェクトチーム

公演特設ページ:https://noruha.net/kasou2024/

TICKET