清潔でとても明るい場所を

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清潔でとても明るい場所、水まわり

言葉に疲れている、と感じることは多い。ふと、目の前の風景を眺めながら、頭の中から言葉を排除しようと努力してみる。それは非常に苦労することだし、無理をしているようにも感じられる。しかししばらくすると脳は違うモードに切り替わり、世界は変化する。それは、いつまでそのまま呆けていても苦痛ではない世界だ。この、言葉から離れた世界は、言葉の世界と明らかに違う位相にある。昔はここまでの乖離を感じていただろうか。もっと無意識に2つの世界を行き来できていたような気がする。なぜここまで、意識的に、努力しなくてはいけないのか。

演劇ではどうしても言葉が中心に置かれる。言葉に関しては疑いがない。なぜこれほどにも疑いがないのか、もしかしたら我々は言葉に対してすでに中毒症状を起こしているのかもしれない。ジャンキーにとっては、言葉は言葉でさえあればよく、それは完成されている必要もないし、論理を持たなくてもよいし、質も問われない。ジャンキーの状態で振る舞えば、言葉はいつまでも続く。言葉が止まってしまうことだけが悪だ。袋小路に入ってしまうことや、あるいは白けてしまうこと。それさえ避けていれば、いつまでもジャンキーはジャンキーとして生き続けることができる。

そうやって発動するジャンキー的な動力源は、エネルギーとしてはとても小さい。しかしそのとても小さいエネルギーによって動けてしまうほど、我々の身体は弱い。そして享楽的だ。ふらふらと、どこまでも進んでいく。

ジャンキーでいてしまうのは我々の前提だし、とても楽な態度だ。しかし摂取が過剰になると疲れてしまう。悪い言葉もあるし、何でも摂り過ぎはよくない。時々は空でも眺めながら言葉を空っぽにしたい。あるいは、たまにはジャンキー的でなく言葉と関係したいときもある。鋭い言葉の、強烈な断絶の前に立ち止まりたいという欲望は排除できない。理想的な状態というのは決して一様ではない。

言葉を手がかりに、様々なあり方の中で動いていたい。『清潔でとても明るい場所を』では、いろんな言葉の様態を通じて、この身体にとって良いあり方を考えてみる。笠井康平氏(いぬのせなか座)には舞台上に配置される言葉をお願いした。舞台美術というものが、舞台上に存在し、俳優の身体と関係しているものだというなら、それは言葉であってもよい。また、詩人の山田亮太氏には詩作のワークショップを担当していただき、それを通じて私が創作した詩を上演テキストの一部として使用する。そもそも専門外のことをするのは無理なことだが、ここで生じる無理は言葉をまた別の方向に解放してくれるだろう。

3人の俳優は先日行われた「ストレンジシード静岡2019」への参加作品「清潔でとても明るい場所に向けて 」でも創作を共にした。様々な場所を通過しながら、一緒に理想的なあり方へと動いていきたい。静岡では、公演が終わったあと、丸子宿の丁子屋まで行って食事をしたのだが、そこのトイレが感動的なまでに清潔で、とても明るいトイレだった。目指していく先にある場所はこのように清潔な水回りなのかもしれない、とそのとき思った。

カゲヤマ気象台 


『清潔でとても明るい場所を』


人々
カゲヤマ気象台*(作・演出・音響)、キヨスヨネスク(出演)、田上碧(出演)、日和下駄*(出演)、山田亮太(詩作指導)、笠井康平(いぬのせなか座 | 舞台美術)、黒木晃(編集)、大田拓未(デザイン)、三野新(写真)、みなみあかり(ACoRD | 照明)、河野遥(ヌトミック | 制作)、中村みなみ(制作協力) *=円盤に乗る派プロジェクトチーム


浜松公演(ワーク・イン・プログレス公演)

2019年8月3日(土)
会場:浜松市鴨江アートセンター
http://www.kamoeartcenter.org/

東京公演に先駆けて、ワーク・イン・プログレス上演を行います。
上演終了後、同会場にてお話し会を開催。作品や生活の実感などについて、ざっくばらんにお話できればと思います(参加自由、1時間程度)。


東京公演

2019年8月8日(木)〜12日(月祝)
会場:BUoY
http://buoy.or.jp/

関連イベント

アフタートーク

8日(木)19:30の回終了後
ゲスト:福尾匠(批評家)

9日(金)19:30の回終了後
ゲスト:安藤朋子(ARICA・アクター)

トークライブ「岸井大輔(劇作家)×小宮麻吏奈(アーター/Arter)」

10日(土)16:00〜17:30
円盤に乗る派から「今回の作品についてそれぞれの観点からお話しして欲しい」というお願いをしました。
流れとしては、初めに小宮さんより上演を受けての「プレゼン」を行っていただき、その後お二人で上演関係者抜きでお話しいただ区という形で行います。 演劇や美術への深い造詣を持ち、カゲヤマ気象台の作品を長いスパンで追ってきた岸井さんと、「人類における新しい生殖の可能性」を自身の身体を起点に模索している小宮さん。
そんなお二人のトークは、作品をより深く理解するための一助となるでしょう。
観劇前でも、観劇後でも、お楽しみいただけるトークです。

シンポジウム「書かれたものについて」

11日(日)16:00〜17:30
演劇にまつわる様々な「言葉」は、何を目指し、どのようなプロセスを経て、どんな効果が表れるのか。
自身で文章表現を行いながら、近年はテキストと上演との関係にも強い興味を持つ、いぬのせなか座の山本浩貴さん、『清潔でとても明るい場所を』で舞台美術としての言葉を製作した、いぬのせなか座の笠井康平さん、同じく今回の公演でビジュアルの撮影を担当し、写真家、舞台作家として活動しながら、演劇のアーカイブ化も実践している、ニカサン主宰の三野新さん。
お三方をパネリストとしてお呼びするシンポジウムは、『清潔でとても明るい場所を』の制作過程で生まれた「書かれたもの」を出発点として、演劇と言葉を取り持つ様々な関係を掘り下げていく試みです。

パネリスト
カゲヤマ気象台(円盤に乗る派)
山本浩貴(いぬのせなか座)
笠井康平(いぬのせなか座)
三野新(ニカサン主宰-写真家・舞台作家)

トークセッション「UCHIAGE」

12日(月)14:00の回終了後
公演期間中に行われる様々に語られることは、上演に制約されています。
そのため公演後に行われる「打ち上げ」では、その制約から解かれることで本質的なことが語られることがしばしばあります。 トークセッション「UCHIAGE」はそんな「打ち上げ」をお客様も交えて「ガチ」で行う試みです。
公演が終わったことで話せること、最近気になっていること、今回の公演までに感じたこと、次回公演に向けどのように動くのか、それぞれ個人としての活動、などを開けっぴろげにポジティブな気持ちで話せる場です。

主催:円盤に乗る派
助成:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)(東京公演)

写真:三野新

公演写真

撮影:濱田晋